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青森地方裁判所弘前支部 昭和35年(ワ)135号 判決

主文

青森地方裁判所弘前支部が、同庁昭和三四年(ケ)第一五九号、第一七八号不動産競売事件につき同三五年五月二一日に作成した配当表のうち、原告にたいして金七、〇七六、〇〇〇円(損害金一、〇七六、〇〇〇円と元金六、〇〇〇、〇〇〇円)を配当するとある部分を坂り消し、金八、四四〇、六七九円(損害金一、〇七六、〇〇〇円と元金八〇〇万円の内金七、三六四、六七九円)を配当すると変更する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、請求の原因として、

「一、訴外弘前土地建物株式会社の所有にかゝる別紙目録記載の各不動産(以下、本件不動産と称する)にたいして、

(1)  訴外株式会社第五十九銀行はそのうち(一)乃至(四)の土地を共同担保として、青森地方法務局弘前支局大正一三年五月一九日受付第三、九七六号をもつて債権極度額二〇、〇〇〇円とする第一順位の根抵当権設定登記を経由していたところ、原告が同じく右土地を共同担保として、同支局昭和三二年五月二〇日受付第七、一三〇号をもつて債権元本極度額八、〇〇〇、〇〇〇円とする第二順位の、また被告が右土地及び(五)の建物を共同担保として、同支局同日受付第七、一三一号をもつて債権元本極度額七、〇〇〇、〇〇〇円とする、(一)乃至(四)の土地につき第三順位の、(五)の建物につき第一順位の、各根抵当権設定登記を経由し、

(2)  訴外昭和信用金庫は(六)の建物につき同支局同三三年二月一七日受付第二、五六八号をもつて債権元本極度額五〇〇、〇〇〇円とする第一順位の根抵当権設定登記を経由していたところ、原告が(五)、(六)の建物を共同担保として同支局同三四年七月七日受付第一〇、六〇五号をもつて債権元本極度額二、〇〇〇、〇〇〇円とする第二順位の根抵当権設定登記を経由した。

二、しかして、原告において(五)、(六)の建物につき昭和三四年七月二九日青森地方裁判所弘前支部にたいし、根抵当権実行による競売を申し立てたところ、同庁同年(ケ)第一五九号事件として係属し、同年七月三〇日競売開始決定がなされ、また(一)乃至(四)の土地につき同年八月一九日同支部にたいし、同じく根抵当権実行による競売を申し立てたところ、同庁同年(ケ)第一七八号事件として係属し、同日競売開始決定がなされ、そして右土地建物は一括競売されて同三五年一月二六日次の代金をもつて競落許可決定がなされた。すなわち、(一)の土地は二、〇五二、〇〇〇円、(二)の土地は二五六、五〇〇円、(三)の土地は三、二三一、九〇〇円、(四)の土地は三、〇〇九、六〇〇円、(五)の建物は一、二二四、四〇〇円、(六)の建物は一四一、二〇〇円。しかして、配当期日は同年五月二四日と指定され、原告は前記各第二順位の根抵当権付貸金債権に基づいて、(五)、(六)の建物に関しては元本二、〇〇〇、〇〇〇円及びこれに対する同三四年八月三〇日から同三五年五月二四日までの約定利率日歩五銭の割合による損害金二六九、〇〇〇円を、(一)乃至(四)の土地に関しては、元本八、〇〇〇、〇〇〇円及びこれに対する同三四年八月三〇日から同三五年五月二四日までの約定利率日歩五銭の割合による損害金一、〇七六、〇〇〇円を、それぞれ配当を求める旨の計算書を提出したところ、同庁において右配当期日に示された同三五年五月二一日付配当表(代金支払表)は、原告に対して金七、〇七六、〇〇〇円(元本八、〇〇〇、〇〇〇円の内金六、〇〇〇、〇〇〇円及び八、〇〇〇、〇〇〇円に対する損害金一、〇七六、〇〇〇円)を配当するとの記載がある。

三、しかしながら、本件競売手続費用は一一三、八九二円、優先する市税債権は一二、八九〇円であるから、その合計一二六、七八二円を前記(一)乃至(六)の競売代金額に按分すると(一)乃至(四)に割付けられるべき額は一〇九、三二一円であり、且つ(一)乃至(四)の土地にたいする第一順位の根抵当権者第五十九銀行には被担保債権が存在しないので、同土地の競売代金から右一〇九、三二一円を控除した残額八、四四〇、六七九円が原告に配当されるべき金額となる。しかして、(一)乃至(四)の土地によつて担保される原告の債権は前記のように元本八、〇〇〇、〇〇〇円及びこれに対する昭和三四年八月三〇日から同三五年五月二四日まで日歩五銭の割合による遅延損害金一、〇七六、〇〇〇円であるから、叙上八、四四〇、六七九円はまず遅延損害金一、〇七六、〇〇〇円として(この点は配当表のとおり)、残額七、三六四、六七九円は元本の内金として、それぞれ充当されるべきである。従つて、原告は配当期日に出頭して、配当表のうち原告の元金に関する部分につき異議を申し立てたが、同日その異議が完結しなかつたので本訴に及んだ。」

と述べ、被告の主張に対し、

「原告が(一)乃至(四)の土地について競売を申し立てるに当り、その請求債権を被告主張のとおりにしたことは認める。もつとも、右申立金額六、〇〇〇、〇〇〇円は、元本八、〇〇〇、〇〇〇円の内額として表示したものである。

ところで、競売申立に当つて債権額の記載が必要とされる所以は、被担保債権が如何なるものかを明らかにするためであり、債権額を限定する意義を持つものではない。すなわち、競売申立人は代金交付期日に至るまで、計算書によつて確定的な債権額を届け出、これを請求し得る訳であり、その際、よし登録税法違反等の事実が生じ得るとしても、それは右競売の申立になんらの影響を及ぼすものではないのである。また、根抵当権の実行においては、登記された債権元本極度額までの元本と、それに対する二ケ年分の利息、損害金が担保される筋合である。従つて被告の主張はすべて失当である。」と述べた。

被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

「一、請求原因第一項中、訴外弘前土地建物株式会社の所有にかゝる本件不動産に対して原告主張のような各根抵当権設定登記が経由されていること、同第二項及び同第三項中、本件競売手続費用、優先する市税債権が原告主張の額であることはいずれも認めるが、原告が右不動産中(一)乃至(四)の競売代金から、自己に配当されるべきものとして主張する金額は、これを争う。

二、原告は、(一)乃至(四)の土地につき競売を申し立てるに当つて特にその請求債権の元本を六、〇〇〇、〇〇〇円と限定し、右金額及びこれに対する昭和三三年五月一日から完済まで日歩五銭の割合による損害金と表示したものであり、右金員について競売手続が開始されたのである。(同三四年(ケ)第一七八号)。ところで、競売法第二四条は競売申立書に「競売ノ原因タル事由」の記載を要求し、また同法第二五条は競売開始決定にも右事由を掲げることを規定して、競売手続の基礎たる債権を明らかにすることを求めているのであつて、この基本である債権元本に応じて登録税も納付されるのである。しかして、債務者らにおいて右請求債権を弁済すれば競売手続はその追行の基礎を失い、爾後その効力を失うこととなり、また利害関係人は請求金額を勘案して自己に対する優先債権額を知り、自ら競売人とたる必要性の有無などを判断するのである。従つて、右申立債権額は、爾後において債権者の随時増額できる性質のものではない。(もつとも、額の減少は何人の利益をも害しないから可能と解されるが、万一増額の必要があれば、別個に競売の申立をすべきである。)若し、そうでないとすれば、何人も抵当権を実行する場合、どれ程多額の債権を有していようと当初適当に寡少に申し立てて登録税を節約し、他の利害関係人を安心油断させておき、いざ配当の段階に至つてにわかに増額して、右増額に応じた配当金の受領を許すことになり、極めて不合理である。かようなことは、前示第二四、二五条の律意を没却することであり、本件における原告の主張及び行動は正にこれに該る。なお、利息、遅延損害金など元本債権に附随する債権については、当初これを確定し難い事情もあるし、またその金額も自ら限定され、元本に比しさほど大きくない等の事由から競落期日まではその補充請求が認められるべきであらうが、しかしその場合にも自ら限度はあり、当初請求した元本債権に附随するものに限られるべきである。原告は前述のように元本六〇〇万円の債権を基礎にして競売を申し立てているのであり、且つ右金額に対する損害金を併せ請求しているのであるから、右六〇〇万円に対する附随債権の範囲において増減が許されても、それ以外の増減は許されるべきでない。従つてこの点において、本件配当表は、原告に過大に配当しようとするものであるけれども、原告の主張するように過少配当の事実は全くない。

以上の次第で、原告の請求は理由がない。」

と述べた。

証拠(省略)

理由

一、訴外弘前土地建物株式会社の所有にかゝる本件不動産にたいして、原告の主張するような各根低当権設定登記が経由されていることは、当事者間に争いがない。

二、ところで、原告が本件不動産のうち(五)、(六)の建物につき昭和三四年七月二九日青森地方裁判所弘前支部にたいし、根抵当権実行による競売を申し立て、同庁同年(ケ)第一五九号事件として係属して同日競売開始決定がなされ、また(一)乃至(四)の土地につき同年八月一九日同支部にたいし、同じく根抵当権実行による競売を申し立て、同庁同年(ケ)第一七八号事件として係属して同日競売開始決定がなされ、そして右土地、建物が一括競売されて、同三五年一月二六日原告主張の金額で競落許可がなされたことは当事者間に争いがないところ、(一)乃至(四)の土地には第一順位訴外株式会社第五十九銀行、第二順位原告、第三順位被告、(五)の建物には第一順位被告、第二順位原告、(六)の建物には第一順位訴外昭和信用金庫、第二順位原告、の各根抵当権が設定されていることは前記のとおりであるから、(一)乃至(四)の土地上の根抵当権者と、(五)、(六)の建物のそれとは異る者があるわけであり、そのうえ同一根抵当権者であつてもその順位を異にする場合である。かような場合、原則として少くとも(一)乃至(四)の土地(一括)と(五)、(六)の各建物との三つに区分して別個に価額を定めなければ配当額の算定に支障を来たすことになると云うべきであるから、一括競売、すなわち土地、建物を一括して一個の最低競売価額を定める方法による競売は不適当と云わなければならない。しかしながら本件においては、一括競売と称しながらも、土地、建物について各別の評価をし、個別的に最低競売価額を定めて、これを競売期日の公告に掲げ且つ個別的に競落代金を定めたものであることは成立に争いのない甲第五、一〇乃至一二号証によつて明らかであるから、一括競売と併せて個別競売が行われたものとみなしてよく、従つて(一)乃至(四)の土地の一括競売と、(五)、(六)の各建物の個別競売とは併存しているものとみなし得る場合である。しかして、右(五)の建物競売代金の配当に関しては一番根抵当権者である被告が、そして(六)の建物の競売代金の配当に関しては昭和信用金庫が、それぞれ原告に優先することは明らかであつて、この点については当事者も争いがなく、本件訴訟において特に問題にする要はないのであるから、(一)乃至(四)の土地競売代金の配当について検討することになる。

三、成立に争いのない甲第一号証の一、四(第一号証の四は甲第六号証の五に同じ)第三号証、証人山本正太郎の証言によつて真正に成立したと認める甲第一七、一八、二一号証、証人山本正太郎、内山公雄、大道寺小三郎の各証言を綜合すれば、原告は昭和三二年三月五日弘前土地建物株式会社との間に継続的手形貸付契約、継続的手形割引契約、当座勘定借越契約、継続的証書貸付契約、継続的無尽取引契約、継続的相互掛金契約、継続的支払承諾契約を結び且つ同会社に対し同契約に基いて金八、〇〇〇、〇〇〇円を弁済期同三五年六月二七日、利息日歩三銭五厘毎月末日一ケ月分後払、右利息の支払を遅滞したときには直ちに全額の請求ができる、遅延損害金日歩五銭の定で貸付け現金を交付し、さらに同年五月二〇日同会社との間に右継続的契約関係に基いて現在及び将来負担する債務を担保するために、(一)乃至(四)の土地(当時は弘前市大字元長町二五番三号宅地五〇〇坪、その後同三四年八月一〇日分割の上、(一)乃至(四)の土地に分筆登記)につき債権元本極度額八、〇〇〇、〇〇〇円とする根抵当権設定契約を締結し、右設定契約を原因として前記根抵当権設定登記を経由したこと、その後同会社は同三三年三月三一日までの利息を支払つたに過ぎないので、原告は同三四年七月一四日付書面をもつて根抵当権設定契約を解除したことが認められる。そして、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

しかして、配当期日が同三五年五月二四日と指定され、原告は(一)乃至(四)の土地競売事件の配当に関して元本八、〇〇〇、〇〇〇円及びこれに対する同三四年八月三〇日から同三五年五月二四日までの約定利率日歩五銭の割合に損害金の配当を求める旨の計算書を提出したことは当事者間に争いがないが、前認定の事実に鑑みれば、右計算書記載の債権が(一)乃至(四)の土地にたいする根抵当権によつて担保されるものであることは十分に肯認し得るところである。

他方、本件競売手続費用が一一三、八九二円、優先する市税債権が一二、八九〇円であることも当事者間に争いがないから、その合計額十二六、七八二円を本件不動産の各競売代金額に則つて比例按分すると、(一)乃至(四)の土地に割付けられるべき按分額は、一〇九、三二一円(円位以下の端数については、三〇銭未満を切捨て)になること計数上明白であり、また右土地にたいする第一順位の根抵当権者第五十九銀行には被担保債権が存在しないことは被告の明らかに争わないところであるから、原告が(一)乃至(四)の土地競売代金から配当を受け得る金額は八、五五〇、〇〇〇円から右一〇九、三二一円を控除した残額八、四四〇、六七九円となる。そうすると、八、〇〇〇、〇〇〇円に対する同三四年八月三〇日から同三五年五月二四日まで二六九日間日歩五銭の割合による損害金が一、〇七六、〇〇〇円であることも計数上明らかであるから、前示八、四四〇、六七九円のうち一、〇七六、〇〇〇円は損害金に、残余は貸付債権元本の内金として、原告に配当されるべき筋合であり、従つて、原告に対して元本八、〇〇〇、〇〇〇円に対する損害金一、〇七六、〇〇〇円と右元本の内金六、〇〇〇、〇〇〇円、合計七、〇七六、〇〇〇円を配当する旨の青森地方裁判所弘前支部同三五年五月二一日付配当表(配当表に右の如く記載されていることは当事者間に争いがない)は、叙上のように変更されなければならない。

四、もつとも、原告が本件競売の申立に当つて請求債権を元本六、〇〇〇、〇〇〇円及びこれに対する昭和三三年五月一日から完済まで日歩五銭の割合による損害金と記載したことは当事者間に争いがない。しかして、被告は申立債権が右のような額である以上、たとえそれが根抵当権の被担保債権の一部であつたとしても、原告が(一)乃至(四)の土地から優先弁済を受くべき債権額はこの申立の限度に止まるものと主張する。しかしながら、競売法二四条二項三号が「競売ノ原因タル事由」を申立書の記載事項とし、従つて申立債権の記載を必要としている所以は、申立債権が如何なる債権であるか、その成立の原因を示し、特定の債権であることを表示するためのものに過ぎないのであるから、右記載の程度はこれを特定認識させる程度で足り債権額を限定するようた意義は持つていないと解すべきであり、申立書に被担保債権の一部のみを記載し、競落期日までに残債権について計算書で増額補充して、その分についても不動産から優先弁済を受けることは可能であると解するのが相当である。

蓋し、任意競売の場合には、債権者はもともと根抵当権または低当権の効力の及ぶ範囲において被担保債権の消滅するまで担保物件の売却代金から弁済を受けることができるのであるから、右範囲内において、申立書には記載しない元本債権はもとより利息、損害金についても現存債権全額の支払を受け得る筋合だからである。もつとも、根抵当権の場合、その被担保債権はその極度額の範囲内において基本契約に従つて貸付けられた債権の合計額であるに過ぎないけれども、利害関係人は登記等によつて自己の債権に優先する債権の限度は少くとも極度額まで変動増加する可能性のあることを認識する筈であり、また右限度額までの抵当権の対抗を受けることを覚悟すべきであるから、叙上のように解することによつて、利害関係人に不当に不利益を蒙らせるおそれはないと云うべきである。

なお、少額の一部債権によつて競売を申し立て、後に至つて計算書で残債権の優先弁済を求め得ると解すれば、被告主張のように登録税逋脱の問題を生ずることにはなるけれども、しかし登録税の逋脱と債権の補充の許否とは次元を異にする問題であり、前者については他に税法上の処理を考慮すれば足りると考えられるからこれを強調するのあまり、後者についてこれを許さないと解釈することは妥当でないと思料される。

五、以上の次第であるから、原告の本訴請求は理由があると認めてこれを認容すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

別紙

目録

(一)弘前市大字元長町二五番三号

宅地 一二〇坪

(二)同所同番四号

宅地  一五坪

(三)同所同番五号

宅地 一八九坪

(四)同所同番六号

宅地 一七六坪

(五)弘前市大字元長町二五番三号

家屋番号大字元長町八番二号

木造亜鉛メツキ鋼板葺二階建診療所一棟

建坪  六〇坪

外二階 六〇坪

木造亜鉛メツキ鋼板葺二階建物置一棟

建坪  九坪

外二階 九坪

(六)弘前市大字元長町二五番三号

家屋番号大字元長町八番四号

木造亜鉛メツキ鋼板葺二階建店舗兼居宅一棟

建坪  一八坪五合

外二階 六坪

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